第3章  安全関係

近年の安全関係での最も大きなトピックスは、2019年の安全品質管理室の発足である。

当社では長年に渡り、板付基地内に配置された安全品質担当者1名を中心に安全活動ならびに品質活動を推進していた。

しかし、板付基地時代は本社と板付基地および西側格納庫に人員が分かれ、

また各組織の業務内容も全く異なることから、全社の安全活動全般を推進するのは困難があった。

そのような状況を打開し、全社で足並みを揃えた、いわゆる「横串を刺した」体制で安全や品質活動を推進するために、

20197月より安全品質管理室を発足した。

室長と室員3名の計4名体制で発足し、奈多移転のタイミングで管理部(当時)より環境活動と航空保安の管理業務が1名の増員と共に移管され、

2023年度現在は5名体制で活動をしている。

安全品質管理室が発足後、最も力を入れて取り組んできたのは「安全・品質・環境の各管理システムを西空にフィットしたものに改善する」ことだった。

当社では業務標準化と業務品質向上、それによる競争力の強化とビジネスチャンスの拡大を念頭に、2004年に品質管理システム(QMS)のISO9001認証を、

そして2005年には環境管理システム(EMS)のISO14001認証を取得した(EMS認証は2008年に返上し、以降はISO14001準拠レベルで活動)。

加えて安全管理システム(SMS)を航空法で導入が義務付けられた2011年以前の2009年から導入しており、

これら3つの管理システムを推進する負荷は非常に大きなものであった。

安全品質管理室の発足後も、年度計画やPDCA報告、適合性評価等の資料作成作業が多く、

肝心の改善や効率化に結びつく具体的で全社横並びの活動までには手が回らないのが実情であった。 

しかし航空法で義務化されたSMSを除けば、QMSEMSは当社の自発的な活動であり、

いずれも業務管理や効率的な実施のためのツールであることから、まず2019年度のQMS認証更新を中止した。

その上で、活動内容の大幅な見直しを行い、真に必要なものを無理なく実施できる内容に絞り込み、

本来の目的である業務品質向上と継続的改善の具体的な活動を充実させることとした。

またSMSについては安全管理規程に従って各取り組みをより深化させ、全社員が安全推進の目的を理解し、

同じ方向を向いて活動できるように見直しを進めている。

これらの見直しを2019年度から続けてきているが、まだまだ取組みは道半ばであり、

規程類の整備や内部監査、教育訓練の見直し等、やるべきことは残っている。

しかし、そのような中で「令和4年度運輸安全マネジメント評価」にて当社が優良事業者に選ばれ、

国土交通省から表彰を受けたことは、こうした取組みの方向性が間違っていなかったことが認められたという点で非常に喜ばしい出来事であった。

当社は航空機を運航する事業者として、「今日までの安全の実績は、明日からの安全を保証してくれるものではない」という事実に真摯に向き合い、

繰り返し愚直に安全推進活動を実施して行くこととしている。

また、安全性を支える品質活動や、会社の社会的責任を果たすための環境活動も、当社の事業からは切っても切り離せないものであり、

それらの活動を社員の意識と当社の風土の中に浸透、定着させる活動を推進していくこととしている。

SMS

安全管理システム(Safety Management System:以下SMS)とは、「安全に係るリスクを管理するための仕組み」で、

その内容は「人間は必ずエラーをする」というヒューマンエラーの考え方を採り入れ、安全に係るあらゆる情報を収集・共有し、

それらのリスクを管理することで事故やインシデントを未然に防止しようというものである。

SMSは、国際民間航空機関(ICAO)の第19附属書の制定を受けて日本国が定めた航空安全プログラム(State Safety ProgramSSP

および航空法に基づき、2011年より国内全ての航空運送事業者が導入を義務づけられているが、

当社では義務付け以前の2009年から既にSMS導入に着手していた。

SMSの導入によって、それまでの「発生した事故やインシデントから学ぶ」、「安全のために個人の経験知を高める」、

「組織の業務内容に応じた安全の取組みを進める」といった考え方は、

「事故やインシデントが起こる前の段階の、小さなエラーやヒヤリハットの経験から学ぶ」、

「小さなエラーやヒヤリハットと、そのリスクを全員で共有して組織の経験知を高める」、

「経営トップが率先し、全社で安全の取組みを推進する」という方向に変わってきた。

また、そうした考え方を組織風土に浸透させるために「SMS基礎訓練」、「SMSリカレント訓練」、「ヒューマンファクターズ訓練」、

CRM訓練」等の教育訓練を全社レベルで実施している。

SMSでは具体的な安全活動を実施するために、毎年度「安全指標・目標値」を策定しており、「安全指標・目標値」を達成する為に、

PlanDoCheckActionという「PDCAサイクル」に則って安全活動に取り組み、

その状況は毎月の「安全推進会議」で情報共有され、内容の評価を行っている。

安全システムアンケート

当社では2006年度から安全に関するアンケートを開始し、社員の安全に関する意識レベルの評価を行ってきた。

当初は基本調査と安全運転(車両)の2項目を設定したアンケートからスタートしたが、

2021年度からは社内の安全意識に関するより詳細な調査分析データを得ること、および同業他社との比較評価を可能とするために、

国土交通省国土交通政策研究所が開発した「安全に関する企業風土測定ツール」を利用したアンケートへと変更した。

このアンケートツールは、安全を重視する風土がどの程度社内に確立されているかを「トップの意識」や「SMSの浸透」、「教育訓練」など

5つの領域に分けて測定・評価を行うことができ、その結果を過去に航空業界20社以上で実施した調査平均データと比較することが可能となっている。

このアンケートにより現在の当社の立ち位置や安全意識の弱点も把握できるようになったので、

今後はその弱点を克服する施策を検討し、取り組みを進めることとしている。

重大インシデント

再発防止のために施された表示

20008月に発生した機体の不時着事故(人身傷害なし)以来、

当社で発生した最も大きな不安全事象は、201810月の「輸送物資の輸送中の落下」である。

1020日(土)の1322分頃、高知県長岡郡大豊町南大王の梶ヶ森付近で、

ベル式412EP型機(JA003W)が生コン(生コンクリート)の入ったバケットを吊下げ飛行中に、

地上約200m上空から山中に生コンを落下させた。

落下した生コンは約600kgで、長さ約100m、幅約30mの範囲に飛散した。

落下したエリアは森林地帯で、幸いにも負傷者や建物等への被害は発生せず、

当社社員と工事関係作業者も無事であった。

その後、運輸安全委員会の調査により、原因は「生コンバケットのシャッター(底部の開口部の扉)の

オーバーセンター機構によるロックが、適切に働いていない状態のまま飛行した結果、乱れた気流により

機体が動揺した際にシャッターに掛かる荷重が増大し、シャッターが押し開かれたもの」と推定されている。

調査結果に基づく再発防止策として、生コンバケットの切替えレバーそばに注意喚起のために

「ロック/解除」の表示を施した。

また物資輸送業務の社内規程の改定を行ない、全作業者に対して再教育を実施するとともに、

リカレント教育の内容に過去に発生した事故の事例紹介を加えるなどの対策を講じた。

アルコール検査

アルコールは人の思考力や行動能力に影響を与えるため、航空機の運航に直接関与する操縦士等においては、安全に直結する重大な問題である。

2018年に航空会社において飲酒に係る不適切事象が相次いだことから、国土交通省では航空機乗組員の飲酒基準に関する議論や取りまとめがなされ、

20191月に発信された航空局長通達「航空機乗組員の飲酒による運航への影響について(航空法第70条関係)」によって、

具体的な体内アルコール濃度の許容基準値が定められた。

また航空運送事業者に対しては、航空機乗組員のアルコール摂取に対する方針や対策を安全管理システムに採り入れ、

社員に対して定期的な教育の実施も求められた。

当社では201941日、「航空機乗組員等のアルコールに関する教育訓練要領」を制定して全従業員に対する初回教育を実施し、

現在は2年度に1回、全従業員に対して教育訓練を実施している。

また同じく201975日に発信された通達「航空機乗組員等のアルコール検査実施要領」に基づき、社内規則として各業務担当者向けの

「アルコール検査実施要領(航空機乗組員等用、整備従事者用、車両運転者用)」を作成し、日々の業務前アルコール検査を実施している。

疲労リスク

2009年に海外で発生した航空機乗組員の疲労が原因と思われる事故をきっかけに、国際民間航空機関(ICAO)等を中心に疲労の管理に関する議論が進み、

諸外国で管理基準の制定が進められたことから、日本においても201741日付で「安全管理システムの構築に係る一般指針(国空航第11546号)」が改正され、

航空運送事業者は航空機乗組員の疲労を安全上のリスクとして管理することが明確化された。

それにより疲労に関連する情報の収集分析や、疲労リスクの管理に係る関係者への教育が義務化され、

当社では201712月より航空機乗組員および運航管理担当者に対する初回教育を開始した。

20186月には、社内規程として「航空機乗組員の疲労リスクの管理に係る教育訓練要領」を制定し、

2019年度より2年度に1回、安全統括管理者、安全管理推進部門長、運航本部長、航空機乗組員、運航管理担当者に対し教育訓練を実施している。

その他

運輸事業の安全に関するシンポジウム2022で行われた表彰式にて

当社の安全に関する取組みは、九州電力グループの安全統括室が実施する

「安全推進に関する取組み事例の表彰対象」や、

国土交通省が実施する「運輸安全マネジメント評価」でも高く評価され、

以下の表彰を受けることができた。

 ・九電グループの2021年度「安全推進に関する取組み事例の表彰対象」にて「奨励賞」を受賞。

 ・国土交通省の「令和4年度 運輸安全マネジメント優良事業者表彰」にて

  「危機管理・運輸安全政策審議官表彰」を受賞。なお、航空業界での単独受賞は初めてである。